Nuck管水腫に関する特集

Nuck管水腫に関する特集

女性患者様からのお問い合わせの多いNuck管水腫についてまとめました。

【概念】
Nuck管とは女性の胎生期に存在する鼠径部(腿の付け根)の構造です。本来は出生とともに速やかに消退していくものですが、遺残する人もいます。それが嚢腫だとか水腫だとか呼ばれる袋となり内部に液体を伴うようになり大きくなると体表から気づかれることになります。成人では20代~40代の女性に多くみられますが、鼠径ヘルニアとの混同・誤認、一般的な医師の認知度の低さから正確な実数把握は困難です。

【診断】
・体表からの触診
身体の表面からは鼠径部の膨らみとして認知されます。鼠径ヘルニアとの区別がつかないこともあります。
・画像診断装置(CT、MRI、超音波)
液体が描出できれば疑われますが、女性の場合、月経に連動して腹水が増え、鼠径ヘルニアのヘルニア嚢に腹水が流れ込むことでも同じような像になるため、純然たるNuck管水腫なのか鼠径ヘルニアなのか断定ができないこともよくあります。両者の併存例にもしばしば遭遇しますし、鼠径部子宮内膜症がみつかることもあります。

【治療】
・穿刺吸引
注射針で内部の液体を吸い上げることです。一時的には症状はよくなりますが、すぐに元に戻ってしまうことが多いので、積極的には提案されません。(身体の負担が大きい処置ではないので、そのことをご理解いただくために穿刺することもあります(ご希望の強いかたのみ))
・手術
嚢腫の開放・除去を行います。解剖学的には鼠径ヘルニア治療に準じた術式として扱われます。実際に、鼠径ヘルニアの併存もしくは将来的な発生が予見される場合はメッシュを使用することもあります。鼠径部切開でも腹腔鏡でも根治的な手術は可能ですが、後者のほうがキズが小さく痛みも少ないため女性の患者様に好まれる傾向があります。鼠径部子宮内膜症が併存する場合は鼠径部の切開が必須とされることもあり、事前に医師に確認したほうがよいと思います。
・術後経過
鼠径ヘルニア手術と概ね共通です。術後しばらく鼠径部の腫れが残存することがありますが、次第によくなります。1回の術後診察(数日から数週)でほとんどの患者様が終了します。
・再発
頻度は低いと思われます。鼠径ヘルニア併存の場合はその再発はありえない話ではありませんが、正しく手術が行われていれば、それもごくわずかだと思います。


・よくある質問

「手術の時期について」
妊娠中に積極的に行うことはありませんが、手術後すぐに妊娠したり、出産してからすぐに手術をうけたりすることに制限はありません。膨らみのみの場合は手術を急ぐ必要はありません。自然に治ることは考えにくいのですが、放置により「手遅れ」となることはありません。ただし、痛みを伴ってくる場合は、患者様のほうから急いでほしいというご希望をいただくことになりますし、それが妊娠中や育児などで忙しい時期であればご負担も大きいかと思います。痛みの発生は予知できるものではないので、生活上余裕のあるときに手術を受けていただくのが合理的です。

「術式について」
 子宮円索(子宮円靭帯)に対する処理
専門的な内容ですが、ここまで踏み込んで質問をよせられることが増えてまいりました。発生学的にはNuck管と子宮円索の癒合は強固であるため、一緒に切断することを余儀なくされます。それを行うことで手術後の痛みが増悪することはありません。また、子宮円索を切断して、不妊になることもありません。実際に切断しなくて済むのは小さい鼠径ヘルニアに対しメッシュを用いない手術を選択する場合に限るのが現実です。円靭帯内部には血流があり、それが妊娠継続に重要な働きをしているという報告もありますが、そもそも子宮を栄養する血管は他にもあり、一般的には子宮の血流障害という病態は考えにくく、相対的に増量した子宮円索内の血流をみて「重要な働き」と断定するのは早計と思われます。
 メッシュの必要性
厳密に言えば、Nuck管水腫単独の場合は必須ではありません。しかし、鼠径ヘルニアが併存していることも少なからずあります。現行のヘルニア治療ガイドライン(日本ヘルニア学会編)は成人鼠径ヘルニアに対しては原則としてメッシュ使用をする立場をとっています。確かに、女性に関しては異論もいろいろありますので、原則はメッシュ使用としながらも、患者様のご希望に合わせて術式を選択することにしています。いずれにせよ、メッシュが妊娠に悪影響であるという根拠はありません。メッシュによる違和感は一定数ありえることですが、妊娠したから違和感に繋がりやすいという説も出典が不明確です。

「生理周期に連動して痛みに変化がある場合気をつけることは」
子宮内膜症の併存の可能性があります。は問診触診とCTなどの画像診断で確認します。Nuck管水腫単独でも月経に連動した痛みの波はありえることです。なお、鼠径部の子宮内膜症については、一般的には婦人科医の認知度は少なく、鼠径ヘルニアを専門としている一部の外科医のみが診断と手術が可能。後者に絞って医師を探していただけるといいと思います。その医師の所属する病院に婦人科があるかどうかは問題にはなりません。

【最後に】
 聞きなれない病名から難病を想起され不安な気持ちになっておられる患者様もおいでかと思いますが、根治可能な病気ですのでその点はまずご安心ください。手術の時期決定は最終的には患者様のお気持ち次第ではありますが、日帰りで苦痛少なく治療が受けられるようになってきました。まずはお気軽に相談いただければと思います。


東京外科クリニック 大橋直樹
http://www.dr-hernia.info/
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